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「くちびるに歌を」~ど真ん中の青春映画でリフレッシュ&自閉症への理解を深めよう!

2016.11.15 | 心によい話

著者:伊藤淳子

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自閉症の兄とその弟が旅をするロードムービー『レインマン』、がんで余命宣告を受けた父が、重い自閉症の息子の自立を目指して奔走する『海洋天堂』――自閉症をテーマにした映画といわれて私が真っ先に思い浮かべるのはこの2作。
今回ご紹介する『くちびるに歌を』は、自閉症の当事者と家族の描き方において、両者に匹敵する映画といっても過言ではありません。
「ええ、そうだっけ?」と頭に疑問符を浮かべる人もいるでしょう。たしかに、この作品はアンジェラ・アキの名曲「手紙~拝啓 十五の君へ~」に着想を得た原作小説を映画化したもの。五島列島の小さな島の中学校に臨時教師として赴任したワケありのピアニストが、さまざまな悩みを抱える生徒たちと出会い、合唱を通してともに成長していく直球ど真ん中の青春映画なのですから。

私が自閉症をテーマにした名作にも匹敵すると感じたのは、新垣結衣演じる臨時教師が出会う生徒のひとり、桑原サトルの兄アキオが重い自閉症で、この兄弟がじつに細やかに描かれているからです。

内気で優しいサトルは、朝夕、兄を働いている工場に送り迎えするのが日課。兄は言われたことをオウム返しに繰り返す以外ほとんど言葉を発せず、サトルと会話を交わすこともありません。毎日決まった時間に決まった行動をし、少しでも予定外のことが起こると(たとえば、かぶっていた帽子が風に飛ばされただけで)たちまちパニックを起こしてしまいます。ロック歌手でもある渡辺大知が、そんな自閉症の特徴を、とても自然に演じています。

兄のせいで部活もできないサトルには親しい友達もなく、教室では独りぼっち。それがひょんなきっかけで合唱部に入部。きれいな声がみんなに褒められ、歌うことが楽しくなり、少しずつ仲間に溶け込んでいきます。

合唱部が目指すのは、全国コンクールへの出場(県予選突破)。課題曲「手紙~拝啓 十五の君へ~」の歌詞を理解するためにと、部員たちに15年後の自分に向けて手紙を書くという課題が出されます。それに応えて書いたサトルの手紙からは、自閉症のきょうだいを持つ子どもの切ない胸の内が十二分に伝わってきます。それはこんな内容です。
「15年後の僕は、間違いなく兄のそばにいるだろう。なぜなら兄に感謝しているから。両親は自分たちが死んだ後に兄の世話をしてくれる弟か妹をつくろうとして、僕が生まれた。僕は将来に対する不安がない。自分の存在している理由がはっきりしているから。それでもごくたまに、兄を疎ましく思うことがある……」

私はこれまでに何度か自閉症や発達障害に関する書籍を編集し、障害の子どもを育てている親御さんの話も聞きましたが、いちばんの気がかりは、「自分たちが亡くなった後に子どもがどうやって生きていくか」だと、口を揃えて言います。残された身内であるきょうだいに、あとを託したいという声も聞きました。揺れ動く年ごろの子どもが、そんな親の思いを必要以上に重く受けとめてしまうのも無理はありません。

心優しいサトルは、両親の大変さがわかるだけに我慢やあきらめが身についています。そのせいで自分にバリアを張り、内にこもってしまっていたのですが、合唱の楽しさを知り仲間を得たことで、しだいにそのバリアが外れ、逞しく成長していきます。その変化を繊細に演じたサトル役の下田翔大の演技も光ります。

映画自体はコンクールの県予選で部員たちが課題曲を歌う場面をクライマックスに、登場人物がそれぞれ前を向いて歩き出すというベタな構成です。でも、彼らの心の機微がていねいに描かれ、歌の力や五島列島の風景の美しさも相まって、上質な青春映画に仕上がりました。心が疲れたときに見れば、間違いなくリフレッシュできます。それと同時、自閉症などの障害の当事者やその家族への理解も深まります。将来、障害者を支援する仕事に就きたい人にもおすすめです。


「くちびるに歌を」

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「くちびるに歌を」(C) 2015 『くちびるに歌を』製作委員会 (C)2011 中田永一/小学館


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