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人生は川の流れのようなもの。一瞬、一瞬がいとおしい!

2016.10.13 | 人間ドラマ

著者:矢田部まり

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長らく日本のイメージは、芸者とフジヤマでした。でも、日本を代表するイメージであるはずの芸者が、実際何をしている人たちなのか、日本人でもそれをきちんと説明できる人はなかなかいないかもしれない。芸者遊びをしたことがある人も、そうそういないだろうし。

「流れる」は、落ち目になってきた置屋が舞台の映画。田中絹代演じる女中が住む込みで働くことになるところから話が始まり、彼女の目を通した芸者たちの日常が描かれていきます。そう、この作品は、名匠・成瀬巳喜男による「家政婦は見た!」なのです。

とはいえ、ストーリー展開に大きな起伏はなく、基本的に最初から最後まで、「お金がなくて困った」という話。何しろ、置屋にはたくさんの女性たちが住んでいるけど、実際にお座敷に出ているのは、若くて可愛い岡田茉莉子と芸が確かな、置屋オーナーの山田五十鈴だけ。それじゃあ、経営も苦しかろう。杉村春子は年増で売れないし、山田五十鈴の娘として置屋で生まれ、芸者の世界を知りすぎたため芸者になりたくない高峰秀子や、男に捨てられて母娘で置屋に転がり込んでいる山田五十鈴の妹は置屋にいても芸者として働きに出ることはありません。これでは、田中絹代の給料もどうやって捻出しているんだろう?と思ってしまう。実際、近所の八百屋のツケも払ってない始末。

なので、イザコザが絶えません。お座敷代をピンハネした、してないという口論や、「娘の花代をピンハネした」と怒鳴り込んでくる元芸者の父親をなだめすかせる騒ぎが展開されます。悩んだ末、山田五十鈴は、親身にお金の工面に奔走してくれた(と思われた)先輩芸者の栗島すみ子に置屋を売却してしまうのです。このまま置屋を続けていればいいという栗島の言葉を信じて。

お金を工面する、というストーリーを軸に、小さな日常のエピソードがいくつも積み重なり、無常感あふれる置屋の零落の日々が浮き彫りになっていきます。出演しているのは日本映画史上のトップクラス女優陣。「豪華女優陣、美の競演!」と謳いたくなるほどですが、オールスター映画にありがちな大雑把なところは微塵もなく、一人一人がまさに適役!決して広くない置屋を舞台に、踊ったり、喧嘩したり、借金に追われたり、悪口を言ったり、男を追いかけたり、男に捨てられたり……リアルな置屋の生活を描く名シーンのオンパレードで、出演者全員の、ただただ見事な演技に酔いしれるばかり。山本五十鈴は本当に美しいし、栗島すみ子の凄みもすごい。役を演じているのではなく、女優たちの実像そのままなのでは?と思ってしまうほど素晴らしい芝居が続きます。

圧巻は、口論の挙句(この口論のシーンの杉村春子の迫力もすごい)に置屋を出て行った杉村春子が、行く場所もなく結局戻ってきて、山田五十鈴と二人、三味線を弾くラストシーン。実は、親身だと思っていた栗島すみ子は買い取った置屋を小料理屋にしようと考えていて、やがて彼女たちは川向こうに追い出される身。そんなことになるとは露知らず、明るい気持ちで三味線を弾く二人。花柳界の生まれの山田五十鈴と杉村春子による、映画出演のために急きょ練習したのではない、本格的な三味線のセッションが映画にさらなるホンモノ感を与えてくれていて、もう鳥肌もの!

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」・・・人の世の移り変わりは、まさに川の流れのようなもの。だからこそ、一瞬一瞬がいとおしい。たとえ人生がどんなに残酷なものであっても、今という時間を大事にしたい。そう思わせてくれる映画です。そして、ラストシーンの三味線にかぶってくる高峰秀子のミシンの音が、明るい未来を象徴していることを願ってやまないのです。

一方、京都の花街を舞台にしたのが溝口健二監督の「祇園囃子」。舞妓修行に励む若尾文子が初々しい!祇園の芸妓・美代春を演じる小暮実千代と、「流れる」の江戸前の芸者、山田五十鈴を比較すると、東西の着物の好みや髪型の違い、町家の様子も分かって、そのようなところを見るのも興味深いもの。花柳界の華やかさとは裏腹に厳しい現実を描いている点で「流れる」に通じるものがあります。

外国人観光客にも人気がある舞妓の世界を描いたのが「舞妓Haaaan!!!」。お茶屋へ通うなど夢のまた夢の私たち庶民にとって、一見さんお断りの世界への道しるべとしても勉強になります。なにより脚本・宮藤官九郎の軽妙なタッチの会話と奇想天外な物語を堪能!


「舞妓Haaaan!!!」

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「舞妓Haaaan!!!」(C)2007「舞妓Haaaan!!!」製作委員会


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