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「離婚」という選択肢が心に浮かんだら、ぜひ見てほしいイラン映画

2016.07.29 | 人間ドラマ

著者:三橋曉

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イラン映画と聞いて、まず思い浮かべるのは『アルゴ』かもしれない。
題材になったアメリカ大使館占拠事件は、その頃まだ生まれていなかったという人のために説明しておくと、イランの首都テヘランにあるアメリカ大使館が反米デモ隊に占拠され、多数の外交官が人質にとられたという事件。1979年に実際にあった出来事だ。
カナダ大使公邸に身を隠していた6人の外交官を救出するため、映画のロケ隊を装ったCIAのエージェントがハラハラドキドキの救出作戦を繰り広げるという映画の内容も実話で、『アルゴ』はアメリカ国内で大ウケし、アカデミー賞(作品賞)にも輝いてしまった。
でもイラン国民にしてみれば、面白くない。というのも、天然資源を目当てに、ずかずかと他人の国に乗りこんできたのは、欧米諸国の方。何でわれわれが悪役にならなきゃいけないの、というわけだ。イラン国内から、『アルゴ』に猛烈な非難の声があがったのも、当然のことだったといえる。
このように、時に映画は国と国、人と人との〝隔たり〟を浮き彫りにしてしまう。でも、そんな〝隔たり〟を埋め、お互いに理解するきっかけを作ってくれるのも、また映画のいいところなのだ。
というわけで、前置きが長くなったけど、イラン映画『別離』(2011年)をご紹介したい。というのも最近見直して、文化や宗教が違っても、家族をめぐる悲喜こもごもは、世界共通のものだと再認識させてくれる映画だったからだ。
物語は、いきなり家庭裁判所から始まる。将来を憂い、一家で海外への移住を望む妻と、認知症の老父を抱え出国を拒む夫。結婚14年目の夫婦が、今まさに離婚の危機を迎えていた。しかし、11歳になるひとり娘を手放せないと主張する夫のせいで、離婚の許可は結局下りずじまい。
妻が実家に戻ってしまったので、夫はやむなく家政婦を雇うが、ちょっとした隙に、父がベッドから転落してしまう。勝手に外出していた家政婦をなじる夫は、玄関から押しだそうとして、彼女を転倒させてしまう。その夜、家政婦の流産を知り、妻と病院に駆けつけるが、生まれてくる子の命を奪ったとして夫は訴えられてしまう。
殺人罪か否かをめぐって延々と続く取り調べがこの映画の見せ場で、双方の主張が火花を散らす展開は、まるで迫真の法廷ドラマを眺めるような面白さがある。なるほど、この映画はミステリー映画でもあったのかと気づかされる。
でも、紆余曲折の末に見えてくるのは、貧困や老親介護といった問題は、世界中の庶民に共通だということだ。離婚の問題もしかり。よく〝子はかすがい〟と言うけれど、しかし両親の離婚で傷つくのはいつも子どもばかり。そんな当たり前のことを、『別離』のラストシーンは、痛いほど訴えかけてくる。
もしも何かの拍子に、あなたの頭に〝離婚〟の二文字が浮かんだら、この映画、観てみた方がいいかもしれませんよ。


「別離」

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「別離」(C)2009 Asghar Farhadi


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